財産分与で相手が財産を隠している場合の対処法を弁護士が解説

離婚に伴う財産分与では、夫婦がそれぞれ自己名義の財産を開示し、対象財産の範囲を確定することが出発点となります。
しかし、実際には「相手方が預貯金を明らかにしない」「別居の直前に多額の引出しをしている」「預金残高が収入に比べて少なすぎる」といった問題がしばしば生じます。

財産分与の手続では、各当事者が財産分与の対象財産を開示すべき義務があると考えられています。
にもかかわらず、一方が財産の開示を拒否し、あるいは財産を隠匿していると疑われる場合、どのような対処方法があるのでしょうか。

本記事では、相手方が財産を隠している疑いがある場合や、別居前に多額の引出しがなされた場合の実務上の対処方法について解説します。

第1 財産開示義務の基本

1 当事者の協力義務

家事事件手続法は、当事者の責務として、信義に従い誠実に家事事件の手続を追行しなければならないとの規定を置いています(家事事件手続法2条)。
そして、その具体的な内容の一つとして、当事者は、適切かつ迅速な審理及び審判の実現のため、事実の調査及び証拠調べに協力するものとするとの規定が置かれています(同法56条2項)。
これにより、各当事者は、財産分与の対象財産を開示すべき義務があると考えられています。

2 財産一覧表の提出

財産分与の調停では、基準時における財産分与対象財産の確定が第1段階であり、そのために、裁判所が公開しているの書式の財産一覧表を作成するという方式がとられています。
この一覧表には、債務の記載欄もあり、各財産の評価も記載されるので、これが完成すれば、これを利用して財産分与対象財産の総額に寄与割合を乗じることによって、財産分与額を算定できます。

開示する財産は、共有名義のもの、それぞれの単独名義のものもすべてを財産一覧表に記載して提出することを求められます。
特有財産も含めます。特有財産は財産分与の対象とならないものの、この点は争いとなることも多く、開示された後でなければ、争いの有無が分からないことが多いためです。
特有財産として財産分与対象財産から除外するためには、特有財産性の立証が必要となります。

3 相手方が開示しない場合の問題

開示義務があるにもかかわらず、現実には、当事者が自己名義 of 財産の開示を拒む場合があり、裁判所が説得しても、これに応じないことがあります。
相手方が開示しないからといって、自己が開示しない理由にはならず、まず自ら開示の上、相手方の開示を求めるべきです。

第2 財産の開示を拒否された場合の対処方法

1 弁護士会照会(23条照会)

一般的な手続として、一方に弁護士である代理人が委任されている場合には、弁護士会による照会手続(弁護士法23条の2)によります。まず、これが先行すべきでしょう。
この手続によれない場合、必要性が認められれば、調査嘱託の手続によることになります。

弁護士会照会には、金融機関(支店まで)の特定が必要ですが、この金融機関が不明の場合に、金融機関を把握するために、預金口座情報を保有する団体に対して、電話料金の支払方法が預金口座からの自動引落としである場合の金融機関名(支店を含む。)と口座の種類及び名義人について照会する方法が考えられています。

2 調査嘱託

家庭裁判所は、必要な調査を官庁、公署その他適当と認める者に嘱託し、又は銀行、信託会社、関係人の使用者その他の者に関関係人の預金、信託財産、収入その他の事項に関して必要な報告を求めることができます(家事事件手続法62条)。

調査嘱託は、調査嘱託先(金融機関の場合はその支店まで)を特定して申し立てることになります。
相手方がその存在を否定している場合には、その銀行の特定の支店に財産を保有していることが推測できる裏付け資料が必要です。探索的申立ては許されません。
預貯金の場合、調査事項は原則として基準時(別居時)の残高です。過去の取引履歴については、その必要がある場合に限られます。

なお、預貯金の名義人の承諾ないし同意がない場合には応じないことが多いので、調査嘱託の採用に当たっては、名義人の同意を得るのが原則です。
ただし、開示を拒否する当事者には、この承諾ないし同意をすることが期待できないことが多いとされています。
裁判所としては、名義人が正当な理由なく財産開示に応じないときは、弁論の全趣旨を考慮して、他方当事者が主張する合理的な額を対象財産と認定することができるとされています。

3 文書提出命令

調査嘱託に協力が得られず、必要性が高い場合には、文書提出命令を検討することになります。
提出命令に従わないとき、また、提出の義務がある文書を滅失させ、その他これを使用することができないようにしたときなどは、過料に処せられます(家事事件手続法64条3項)。

4 保全処分(仮差押え)

財産分与の審判を申し立てたときは審判前の保全処分(家事事件手続法157条1項4号)として、離婚事件として財産分与が問題となっているときは、離婚訴訟を本案とする保全処分として仮差押えの申立てと共に、陳述催告の申立て(民事保全法50条5項、民事執行法147条、民事執行規則135条1号)をすれば、額に関する情報を知ることができます。

第3 対象財産ごとの調査方法

1 預貯金の有無

当事者が預貯金の開示をしない場合、多くの場合、金融機関に対する弁護士会照会又は調査嘱託をすることになります。
先述の通り、金融機関が不明の場合には、電話会社への照会により電話料金の自動引落とし先の金融機関名と口座情報を把握する方法が活用されています。

額は不明だけれども預貯金の存在が認められるときには、特に有効な方法です。預貯金の存在が確実でないときでも利用できるのではないかとされています。
この前提として、当事者は、名義人が秘匿していると考えられる預貯金の額を主張しておく必要があります。
その額は、当事者の資産、収入状況や同居時の経済状態、統計上の貯蓄率等を根拠に推定することになります。

2 退職金の有無

退職金について、相手方がその有無を明らかにしない場合、勤務先への基準時(事案によっては婚姻時も併せて)における支給額(計算根拠となった退職金規程の添付をも求める。)を調査嘱託することが可能です。
勤務先が嘱託に応じない場合は、文書提出命令も検討します。

3 株式等の有無

相手方が有する株式や有価証券が不明の場合、その取引証券会社への弁護士会照会又は調査嘱託によります。
株式そのものを把握できない場合でも、配当所得は把握できるので、これを「その他一切の事情」として考慮することが可能となります。

第4 使途不明金と隠し財産の主張

1 預金残高が少ないという主張

家計管理を配偶者に任せていた側が、離婚が近くなって預金残高を確認し、「残高が想定していたより著しく少ない。どこかに隠している財産があるはずだ」と主張がなされることがあります。
これは、総収入から平均的生活費と預貯金額を差し引いた差額を隠し財産として主張するものです。

しかし、預金残高が想定より少ないのは、多くの場合は生活費として費消されたと考えられ、実際に裁判上でもそのように主張されることが多くあります。
単に「こんなに少ないはずがない」というだけでは、婚姻期間中の預金の取引履歴の開示や隠し財産の主張が取り上げられることはありません。

2 例外的に隠し財産が認定されるケース

例外的に、隠し財産の存在が認定されるケースもあります。
例えば、基準時の直前に数百万円の預金を引き出していたケースや、相当に高額な収入を得ているにもかかわらず、合理的な理由がなく基準時残高が極端に少ないようなケースです。
ただし、これらは例外的であり、一般化はできません。

3 基準日前の出金額の推定

基準日前に預金が引き出された場合に、その払戻しを隠し持っているとの主張がなされることがあります。
この場合は、基準日よりどれだけ前の払戻しかという「期間」の問題と、いくら払戻しを受けたのかという「金額」の問題を比較して決することになるとされています。

直前でかつ高額であれば、使途について合理的な証明がない限り、隠し財産があると推認されます。
基準時の直前に100万円を超えるような出金をしている場合には、通常、基準時においても現金として資産を保有していると推測できます。

他方で、基準時の直前であっても数万円から数拾万円程度の出金であれば、生活費で費消したと考えられます。
基準時よりも数年前の出金は、その金額がよほど高額でない限りは、生活費で費消したと考えられます。

第5 別居前の多額引出しへの対処

1 財産分与の先取りか婚姻費用の前払いか

別居に際して夫婦の一方が無断で持ち出した金銭や財産のやり取りがあった場合、それが婚姻費用の前払いなのか、財産分与の前渡しなのかは、分与財産の種類や価格、経緯等から判断することになります。

2 財産分与の先取りとなる場合

相手方が、別居にあたって多額の金銭を引き出したような場合には、通常は財産分与で処理します。

相手方に対して生活費を送金しており、その金額が婚姻費用分担請求調停で合意された婚姻費用よりも高額だったとしても、払い過ぎた部分を財産分与で処理するということは通常なく、婚姻費用の未払いがあればそれに充当するなどの処理をします。

3 無断持ち出しの返還請求

別居時に、夫婦の一方が実質的な夫婦共有財産を無断で持ち出した場合、持ち出された側は返還を請求できるかという問題があります。
別居後の生活資金や生活環境確保を目的として持ち出したという事案であり、返還請求は認められにくいです。
ただし、無断持ち出し金額が極めて高額である場合などは、財産分与において考慮することになります。

4 「その他一切の事情」としての清算

別居後の金銭のやりとりを財産分与の「その他一切の事情」として清算することもあります。
具体的には、婚姻費用の未払いがある場合、子の学費を負担していた場合などがありますが、あまり例は多くありません。

第6 財産隠しの効果とペナルティ

1 秘匿のデメリット

財産を秘匿することには大きなデメリットがあります。
対象財産はないと主張していたにもかかわらず、その後の調査嘱託によって多額の対象財産の存在が明らかになったという事情や、申立当事者において他方当事者名義の財産の存在やその程度について主張立証活動を行った結果に基づき、他方当事者にも対象財産を秘匿していると認定できる額を対象財産と認定することがあるとされています。

また、直接証拠がなくてもいわゆる弁論の全趣旨により認定する方法をとることもあります。
財産隠しをしていたことが判明したときには、審理が遅延するだけでなく、その当事者に対する信用も失われます。

2 財産分与の申立ての却下

財産分与請求の申立人が対象財産を開示しないような場合には、財産分与の申立てが却下されることもあり得ます。

第7 弁護士に相談すべき場面

相手方が財産を隠匿している疑いがある場合、適切な時期に適切な調査手段を講じることが極めて重要です。
以下のような場合には、早めに弁護士にご相談ください。

お早めにご相談いただきたいケース

① 相手方が預貯金や資産の開示を拒否している場合
弁護士会照会や調査嘱託など、専門的な調査手段の活用が必要となります。

② 別居直前に相手方名義の預金口座から多額の引出しがなされた場合
使途の合理性を争い、隠し財産として財産分与の対象に含めるための主張が必要です。

③ 相手方の収入に比べて預金残高が不自然に少ない場合
具体的な資料に基づく使途不明金の主張には、専門的な分析と立証が求められます。

④ 相手方が財産を第三者に移転している疑いがある場合
保全処分(仮差押え)を含む迅速な対応が必要です。

南池袋法律事務所では、財産分与における財産調査や隠し財産の追及に関するご相談を数多くお受けしております。相手方の財産の状況を把握し、適正な財産分与を実現するためのサポートをいたします。

お電話のほか、LINEやお問い合わせフォームからもご相談の予約を受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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